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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)18455号 判決 1991年2月25日

原告 武蔵野カーボン株式会社

右代表者代表取締役 菅野須美子

右訴訟代理人弁護士 三好徹

同 平出一栄

被告 小島電機工業株式会社

右代表者代表取締役 小島勇治

右訴訟代理人弁護士 酒井什

主文

1  被告は原告に対し、別紙物件目録一記載の建物を明渡せ。

2  被告は原告に対し、昭和六三年一二月二五日から右建物明渡ずみに至るまで一か月金一〇三万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明渡せ。

(二) 被告は原告に対し、昭和六三年一二月二五日から右建物明渡ずみに至るまで一か月金一〇三万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は被告の負担とする。

(四) 仮執行の宣言

2  予備的請求

(一) 被告は原告に対し、原告から金三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録一記載の建物を明渡せ。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

(三) 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

(主位的請求)

1 原告は被告に対し、昭和四七年一二月五日、別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を倉庫兼事務所として賃貸し、以後右契約を更新して来たが、昭和六二年五月一日に賃貸期間昭和五九年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日までの三年間、賃料一か月五一万七〇〇〇円、共益費用1か月四〇〇〇円、賃貸借契約が終了した場合、被告は契約終了の日の翌日から本件建物明渡ずみに至るまで一か月当たり賃料額の倍額の損害金及び共益費相当額を支払う旨の約定で更新した(更新された契約を以下「本件賃貸借契約」という。)。

2 また、右契約締結の際、原告は被告に対し、右契約に付随して本件建物の前面空地部分を軽乗用車二台の駐車場として賃料一か月三万円の約定で貸渡した。

3 本件賃貸借契約には、被告において本件建物外に資材等を放置して美観を損ねるような行為をし、または原告及び本件建物の存する別紙物件目録二記載のビル(以下「本件ビル」という。)の他の賃借人並びに近隣の者の居住、営業に迷惑を及ぼすような行為をすることを禁止する旨の条項が存する。

4 しかるに、被告は、常時自己の商品を本件建物の前面空地部分に積上げて右部分を商品置場として使用し、また本件ビルの前面路上に日常的に違法駐車をするなど近隣居住者に多大の迷惑を及ぼしている。

5 そのため、原告は被告に対し、これまで再三に亘り右のようなことのないよう注意を喚起して来たが、被告においてこれを聞入れなかったため、昭和六三年九月二九日、右被告の行為につき直ちにこれを中止するよう催告したにもかかわらず、なお被告がこれに応じなかったため、原告は、昭和六三年一二月二四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

6 よって、原告は被告に対し、賃貸借契約の終了に基づき、本件建物の明渡及び賃貸借契約終了の日の翌日である昭和六三年一二月二五日から本件建物明渡ずみに至るまで損害金として前記約定にかかる賃料の倍額及び共益費相当額合計一か月金一〇三万八〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

(予備的請求)

1 主位的請求原因事実1、2に同じ

2 本件賃貸借契約は、昭和六二年一一月三〇日の経過により更新され、期間の定めのない賃貸借契約となった。

3 原告は、平成元年八月二一日、本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をした。

4 右解約の申入には次のような正当事由がある。

(一) 原告には本件建物につき自己使用の必要性がある。

(1) 本件建物は、被告に賃貸する以前、原告において、メタリックブラシの材料であるカーボンの製造工場としてこれを使用していた。

(2) 原告は本件建物を被告に賃貸後、本件ビルの三階部分を作業所及び原告会社社長らの住居とし、メタリックブラシの製造を主たる業務として営業を続けてきたものであるが、その後業務が拡大し、取扱製品がブラシフォルダー、スリップリングにまで及び、もはや本件ビルの三階部分のみを作業所とすることでは対応することができない状態になった。

(二) 他方、被告は、本件建物を商品配送のための倉庫として使用しているが本件建物においてこれを継続しなければならない必然性は全くない。

(三) また、主位的請求原因4記載の被告の行為により、原告と被告間の信頼関係は著しく傷つけられており、原告会社及び同会社社長らが作業所及び住居として本件ビルの三階部分を使用しているとき、被告に本件建物の使用を許すことは精神的に極めて困難である。

(四) 原告は被告に対し、本件正当事由を補強するため金三〇〇万円を支払う用意がある。

5 よって、原告は被告に対し、原告から金三百万円の支払を受けるのと引換えに、本件建物の明渡しを求める。

二  請求原因に対する認否

(主位的請求について)

1 請求原因1の事実中、本件賃貸借契約に原告主張の損害金の約定が存在する事実は否認し、その余の事実は認める。

2 同2、3の事実は認める。

3 同4の事実中、被告が商品を積上げた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

原告主張のとおり、被告は本件建物を倉庫兼事務所として賃借していたものであるから、本件建物の前面空地部分は商品の搬入及び搬出のため利用することが当然に予定されており、被告は賃借後十有余年に亘り右用法に従い一時的に商品の積降し場所としてこれを使用しているものであって、用法違反には当たらない。

4 同5の事実中、原告が被告に対し、原告主張にかかる契約解除の意思表示をした事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(予備的請求について)

1 請求原因1の事実中、本件賃貸借契約に原告主張の損害金の約定が存在する事実は否認し、その余の事実は認める。

2 同2、3の事実は認める。

3 同4の事実は否認する。

三  抗弁

(主位的請求について)

被告は本件紛争に至るまで賃借後十有余年に亘り、何らの問題もなく本件建物を使用しており、原告との信頼関係を破壊したことはない。

(予備的請求について)

1 原告は自己使用の必要性を言うが、カーボン製造工場としての操業が困難になったことを理由として本件建物を被告に賃貸しておきながら、再び工場として使用する必要が生じたとして本件建物の明渡を求めることは信義誠実の原則に反し許されない。

2 原告は本件ビルの四階部分に空室を有しており、本件建物を使用する必要性はない。

3 被告は、昭和四七年以来、本件建物を被告の文京営業所として使用し、右営業所において、従業員一一名を擁し年間七億円以上の売上を得ている。したがって、本件建物を明渡すことにより多大の損害を被るものであり、金三〇〇万円の提供は正当事由の補強として相当ではない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は全部争う。

第三証拠《省略》

理由

一  先ず、主位的請求について検討する。

1  当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によれば、原告が電材卸業を営む被告に対し、昭和四七年一二月五日に本件建物を倉庫兼事務所として賃貸し、以後右契約を更新して来たが、昭和六二年五月一日に右契約を、賃貸期間昭和五九年一二月一日から昭和六二年一一月三〇日までの三年間、賃料一か月五一万七〇〇〇円、共益費用一か月四〇〇〇円、本件賃貸借契約が終了した場合、被告は原告に対し契約終了の日の翌日から本件建物明渡ずみに至るまで損害金として賃料額の倍額の損害金及び共益費相当額を支払う旨の約定で更新したこと、また右契約更新の際、原告が被告に対し、右契約に付随して本件建物の前面の空地部分を軽乗用車二台の駐車場として賃料一か月三万円の約定で貸渡したこと、本件賃貸借契約には、被告が本件建物外に資材等を放置して美観を損ねるような行為をし、または原告及び本件ビルの他の賃借人並びに近隣の者の居住、営業に迷惑を及ぼすような行為をすることを禁止する旨の条項及び被告において右条項に違反したときは原告において何らの通知催告を要せずして本件賃貸借契約を解除することができ、その場合、被告は原告に対し本件賃貸借契約解除の日の翌日から本件建物明渡ずみに至るまで一か月当たり損害金として賃料額の倍額及び共益費相当額以上合計金一〇三万八〇〇〇円を支払う旨の条項が存すること、原告はかねがね被告が自己の商品を本件建物の前面空地部分に積上げて右部分を商品置場として使用し、また本件建物の前面路上に日常的に違法駐車をして近隣居住者に多大の迷惑を及ぼすなどしていたため、被告に対し、再三に亘り右のようなことのないよう注意を喚起して来たが、被告においてこれを聞入れず、かつ昭和六三年九月二九日にも右のような被告の行為につき直ちにこれを中止するよう催告したにもかかわらず、被告がこれに応じなかったとして、昭和六三年一二月二四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、以上の事実が認められる。

2  そこで、被告が本件建物外に資材等を放置して美観を損ねるような行為をし、または原告及び本件ビルの他の賃借人並びに近隣の者の居住、営業に迷惑を及ぼすような行為をしたか否かについて検討する。

《証拠省略》を総合すれば、被告は、昭和六三年以降、被告が軽乗用車二台の駐車場として原告から借受けた本件建物の前面空地部分に営業日には相当の長時間に亘り自己の商品を積上げて右部分を商品置場として使用し、あるいは営業用車両を駐車していること、なお右商品の積上方法は相当に乱雑で周囲の美観を損なうものであるばかりか、ときには右借用部分の北側に存する原告ら通路部分にも右商品を積上げ、または営業用車両を駐車していること、さらに被告は本件建物の前面路上が全面駐車禁止地域であるにもかかわらず日常的に駐車をするなどし、これらの行為により原告初め本件ビル居住者及び近隣の者に迷惑を及ぼしていること、加えて被告は右違法駐車に関し富坂警察署より四回に亘り事情聴取を受け、原告もまた右に関連して富坂警察署より事情聴取を受けていること、以上の事実が認められる。《証拠判断省略》

しかして右事実によれば、被告は原告との約旨に反し、本来軽乗用車の駐車場用地として使用を許された本件建物の前面空地部分を商品置場として使用するなどして美観を害するとともに前記のように原告らに迷惑を及ぼし、本件賃貸借契約に違反しているものと言わなければならない。

3  しかしながら他方、原告は被告に対し本件建物を倉庫兼事務所として賃貸していたのであるから、右契約の性質上、被告において本件建物の前面部分を商品置場として使用してもある程度やむを得ない点があり、かかる事実を考慮すると、被告の前記契約違反を理由として本件賃貸借契約の解除を認めることは、特段の事由のない限り、些か酷に過ぎる感がないわけではない。

そこで、右特段の事由の有無につき検討する。《証拠省略》を総合すれば、原告と被告は、昭和六二年五月一日に従前の賃貸借契約を更新して本件賃貸借契約とした際、わざわざ、従前の契約には定めのなかった前記条項即ち被告が本件建物外に資材等を放置して美観を損ねるような行為をし、または原告及び本件ビルの他の賃借人並びに近隣の者の居住、営業に迷惑を及ぼすような行為をすることを禁止する旨の条項及び被告において右条項に違反したときは原告において何らの通知催告を要せずして本件賃貸借契約を解除することができる旨の条項を設けた事実が認められ、かかる事実に《証拠省略》を総合すると、昭和六〇年頃から被告が自己の商品を本件建物の前面空地部分に積上げて右部分を商品置場として使用し、原告や本件ビルの居住者に迷惑を及ぼすことがあったため、原告は被告に対し再三に亘りかかることのないよう申入れてきたが、被告が容易にこれに従わなかったため、原告と被告は、昭和六二年五月一日に従前の賃貸借契約を更新して本件賃貸借契約とした際、原告及び本件ビル居住者らの生活環境を保持するために、被告に対し本件建物等の使用方法につき厳重な制限を課す趣旨で従前の契約条項には定めのなかった前記各条項を設けたものと推認するのが相当である。《証拠判断省略》

そうすると、原告は本件建物の賃貸目的を十分承知した上、被告に対し本件建物等の使用方法につき厳重な制限を課し、被告もこれを承知して前記条項を設けることを承諾したものと言うべきである。したがって、被告としては仮に自己の営業に不便を来たすことがあったとしても、なお右条項を誠実に順守すべき義務を有するものと言わなければならないにもかかわらず、前記のようにこれを順守しなかったものであるから、被告の義務違反は重大であり、加えて原告が被告に対し、再三に亘り前記条項に違反することのないよう申入れ、さらに昭和六三年九月二九日にも被告の違反行為につき直ちにこれを中止するよう催告したにもかかわらず、被告がこれに応じなかったため、昭和六三年一二月二四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をするに至ったこと等の事情を考慮すると、原告の右契約解除の意思表示は正当であると言わなければならない。

4  以上の次第であるから、本件賃貸借契約は昭和六三年一二月二四日を以て前記解除により終了したものと言うべきであり、また、本件賃貸借契約が解除された場合、被告が原告に対し契約解除の日の翌日から本件建物明渡ずみに至るまで損害金として一か月当たり賃料額の倍額及び共益費相当額以上合計金一〇三万八〇〇〇円を支払う旨約していること前記認定のとおりであるから原告の本訴主位的請求は理由がある。

二  よって、原告の本訴主位的請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福井厚士)

<以下省略>

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